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アジャイル建築 — 書評「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」坂口恭平著
作者は建築家であるが、大学の建築教育に違和感を感じ、廃墟に住んでみたりルドフスキーに傾倒したりの魂の遍歴を経つつ、ついに「都市の中で自立しながら振動しつづける建築」(p.163) を、しかし隅田川河岸で発見してしまう。衝撃を受けた作者はフィールドワークを重ね、結果できたのがこの本だ。したがって本書の前半部分はゼロの状態からどのようにサヴァイヴするかに関して書かれていてそれはそれで面白いけれども、おそらく本書の白眉は後半部分、路上生活者の住環境に関する調査と考察だ。
はっきり言ってしまおう、どこからどう読んでもアジャイルである。「そもそも現代の家は大きすぎるんじゃないか」(p.43)などという主張、YAGNIと関係性がないとはにわかには信じがたいものがあるし、特に「鈴木さんの家」(5章)はダンボールハウス→竹組掘っ立て小屋→木造の快適な家に至るプロセスは継続的インテグレーション、またその他の事例も含めていわばセルフビルド建築パターンとでも呼ぶべきカタログにもなっている。実に興味深い。要するに建築にだってちょろっと作ってすぐ捨てるようなのがあったっていいじゃんという話なんだな。沢田マンションがJavaなのだとしたら鈴木さんの家はPHP、いやシェルスクリプトだろう。軽快で、身の丈に合っていて、ともかく用を満たしている。
セルフビルド建築は受託開発じゃないから、そういう意味では日本のソフトウエア産業においては本書を直接の参考にするのは難しいだろう。しかし思い出して欲しいが、そもそもアレグザンダーは施工まで住民が参加することを想定していたのだ。プログラマだってお客さんに納品するだけじゃなくて自分で使うプログラムをさっくり書く事は多い。同様の行為を建築でやろうとするとこうなる、という実例は実に味わい深いものがあるといえる。
ともかくおすすめ。アジャイル関係の人は必読。薄い(厚さも内容も)ので通勤時間などに。